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生きることが下手です。死んだふりは上手です。

映画『死体の人』


        奥野瑛太 唐田えりか
        楽駆 田村 健太郎 岩瀬 亮 / 烏丸せつこ きたろう

        主題歌:「僕らはきっとそれだけでいい」THEイナズマ戦隊(日本クラウン株式会社)
        製作:長坂信人 エグゼクティブプロデューサー:神 康幸 プロデューサー:利光佐和子 音楽プロデューサー:小野川浩幸 音楽:沼口健二・足立知謙 撮影:勝亦祐嗣 照明:高橋拓 録音:百瀬賢一 助監督:東條政利 キャスティング:新江佳子 装飾:松田英介 スタイリスト:三浦玄 ヘアメイク:平林純子 MIX:柴藤佑弥 制作担当:谷口昭仁 編集:草苅勲・伊藤潤一 スチール:草野庸子 制作担当:CLEO・Yプロダクション 制作プロダクション:オフィスクレッシェンド 配給:ラビットハウス
        ©2022オフィスクレッシェンド 2022 / 日本 / カラー / シネマスコープ / 5.1ch / 94分 / PG12
死体役ばかりの売れない役者に訪れた運命の出会い――生き下手な大人達による自分探しの物語。
監督:草苅勲 脚本:草苅勲 渋谷悠
MI-CAN3.5復活祭 未完成映画予告編大賞 グランプリ受賞
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Introduction

オフィスクレッシェンド主催の“まだ存在しない映画の予告編”で審査するユニークな映像コンテスト「未完成映画予告編大賞 MI-CAN3.5復活祭」最優秀作品の映画化。

演じることにかける想いは人一倍強いものの、死体役ばかりをあてがわれる男の姿を通して、理想と現実の折り合いをつけることの難しさ、そして何より、“生きることと死ぬこと”という、私たち誰もの前にある深遠なる問題を描き出している。2014年の「ndjc:若手映画作家育成プロジェクト」で制作した『本のゆがみ』をはじめ、2016年公開のオムニバス映画『スクラップスクラッパー』内の一編「To be or...」、ラッセ・ハルストレム監督作『僕のワンダフル・ライフ』(2017年)のソフト化を記念して作られた『ひなたぼっこ』など、草苅監督は独自の視点で人間を見つめてきた。本作では自身の俳優経験をも活かし、ユーモアとペーソスのバランスが絶妙な人間ドラマを生み出している。

主人公の〈死体の人〉を演じるのは、『アルキメデスの大戦』(2019)や『プリテンダーズ』(2021)、『グッバイ・クルエル・ワールド』(2022)などの奥野瑛太。作品のジャンルを問わず幅広い活動を展開し、ドラマ『最愛』(2021/TBS系)での好演も記憶に新しい演技巧者が、ひとりの人間の“生き様”をスクリーンに刻む。そんな〈死体の人〉が運命の出会いを果たすヒロイン・加奈役に、『寝ても覚めても』(2018)や『の方へ、流れる』(2022)の唐田えりか。奥野を相手にした胆大心小な彼女の演技が観る者を魅了する。また、加奈の恋人役を楽駆が演じるほか、〈死体の人〉の両親役を、きたろう、烏丸せつこ らベテラン俳優が務め、コミカルな作風に深みを与えている。

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            将来にむかって歩くことは、ぼくにはできません。
            将来にむかってつまずくこと、これはできます。
            いちばんうまくできるのは、倒れたままでいることです。
            フランツ・カフカ
            ―「絶望名人カフカの人生論」頭木弘樹 編訳(新潮文庫)

Story

生きることが下手です。死んだふりは上手です。

役者を志していたものの、気がつくと“死体役”ばかりを演じるようになっていた吉田広志(奥野瑛太)。開いたスケジュール帳はさまざまな方法で“死ぬ予定”でいっぱいだ。「厳密にリアリティを追求するなら……」と演じることへの強いこだわりを持つ彼だが、効率を重視する撮影現場では、あくまで物言わぬ“死体”であることを求められる。劇団を主宰していた頃の後輩俳優は要領よくテレビで活躍を果たしているが、彼にはそれができない。死体役には死体役のリアルが彼の中にはあるのだ。ひとりのときでも発泡酒を口にすれば“毒死のシーン”を、浴槽に浸かれば“溺死のシーン”を演じ、常に死に方を探求する日々を送っていた。

そんな〈死体の人〉が、人生を変えられるような運命的な出会いを果たす。ある日、自宅に招いたデリヘル嬢・加奈(唐田えりか)との情事の後、彼は「ベタな質問で恐縮なんだけど……何でいまの仕事をしてるの?」と彼女に問いかける。それはそのまま〈死体の人〉にも跳ね返ってくる質問だった。「けっこう喜んでもらえるし、こんなことくらいでしか人を喜ばせられないから」と答える加奈に対して、「俺なんか誰も喜ばせられないよ……」と自嘲気味に〈死体の人〉は続ける。明るく振る舞う加奈だが、彼女もまた自身の人生に問題を抱えていた。

しかし、ある日唐突に〈死体の人〉の元に、母(烏丸せつこ)が入院するという報せが父(きたろう)から入る。気丈に振る舞う母だが、どうにも病状は良くないらしい。さらにそこに、新たな問題が発生。偶然見つけた妊娠検査薬を何気なく自分で試してみたところ、何と陽性反応が出たのだ。これはいったいどういうことなのだろうか……?

消えゆく命、そして、新たに生まれてくるかもしれない命──。〈死体の人〉こと役者・吉田広志は、一世一代の大芝居に打って出る。

staff

監督・脚本 草苅 勲

くさかり いさお 1972年生まれ 埼玉県出身

劇団での役者経験を経て2005年より映像製作を始める。2014年にndjc若手映画監督育成プロジェクトに参加し「本のゆがみ」を監督。2016年オムニバス映画「スクラップスクラッパー」が新宿K’sシネマ他各地で上映される。2018年短編映画「ひなたぼっこ」が函館イルミナシオン映画祭(グランプリ受賞)、伊勢崎映画祭(準グランプリ受賞)、福井駅前映画祭(観客賞受賞)、蓼科高原映画祭(一般審査員賞受賞)、また2021年短編映画「吉川の通夜」が函館イルミナシオン映画祭(グランプリ受賞)など、各地の映画祭で上映され好評を博す。

Director's Interview

Interview

『死体の人』のはじまり

本作の構想が生まれたのは15年以上も前のことで、かつて僕が役者をやっていた頃のことです。当初は短編の企画だったのですが、改稿を重ねていくうちに物語が膨らみ、やがて長編で撮りたいと思うようになりました。でもそのチャンスはなかなか訪れません。そこでパイロット版的なものとして予告編を撮ってみたところ、偶然にも第1回目の「MI-CAN」が開催されたので応募したんです。残念ながらそこで選ばれることはありませんでしたが、その数年後の「MI-CAN3.5復活祭」に知らないうちにノミネートされていて。本当に思いがけない流れで長編映画として企画をスタートさせることができたんです。これはとある一人の俳優の姿を描いた作品ですが、彼と同じように、もともと目指していたものと現状の自分の姿とが近いようで違う人って少なくないと思うんです。例えば、いまやっている仕事で生活できてはいるけれど、ふと何かのタイミングで立ち止まって、「あれ、これでいいのかな?」と考えてしまったりする。そこでどんな選択をするのかは個々人の自由です。ただこの映画は、そんな立ち止まってしまった人々の背中を押すようなものにしたいと考えていました。

〈死体の人〉が主人公の物語の着想

俳優の道を歩んでいた人間が、気がつけば死体の役しかやれていない実情を描いたら物語として面白いんじゃないかと思いました。それに加えて、彼は男性でありながらひょんなことから妊娠検査薬を試してみたところ、まさかの陽性反応が出るというエピソードを絡めてみようと。これには物語の中で明かされる特別な理由があるわけですが、この二つの軸があることで、“生と死”というものを象徴的に描くことができる。彼が生と死というものに真剣に向き合ったうえで人生を進んでいくさまを描ければ、単に一人の男の悲哀をユーモラスに見つめただけの作品では終わらないだろうと思いました。僕が撮るものって、ベタといえばベタだと思うんです。でも別の言い方をするならば、普遍的だともいえる。そこに自分らしいテイストや、そのときどきに興味や関心のある要素を取り入れています。

演じることに真摯で熱い奥野瑛太、
脚本のコアを掴む唐田えりか

〈死体の人〉である主人公・広志役の奥野さんは、プロデューサーからご提案いただきました。彼の演技の細かな表現に惹かれていましたし、作品や演じる役によってまったく異なる表情と佇まいを見せられるのが素晴らしいなと。奥野さんなら〈死体の人〉を魅力的に演じられるだろうという確信がありました。彼自身も現在のキャリアを築き上げる過程でいろいろな経験をされているはずで、劇中の広志の姿から垣間見えると思います。奥野さんは演じるということにとても真摯で熱く、それはこの主人公像とも重なるものですね。ヒロインである加奈役の唐田さんとは、オーディションで出会いました。僕の脚本って、登場人物たちがちょっと風変わりなことをマジメにやる面白さがあると思うんです。観る人によってはすごく滑稽に映るかもしれませんが、また別の人にとってはシリアスなものだと映ったり。演じていただく方はここのバランス感覚が重要で、唐田さんはオーディションの時点から僕の求めている方向性の演技を示してくださいました。脚本のコアを掴む力に優れた方なんだと思います。

草苅監督の考える、俳優とは何か?

この作品は主人公が俳優なだけあって、俳優という存在に迫ったものでもあります。僕の好きな俳優像というか、求める俳優像というのは、まず各作品ごとの文体を語ることができる人です。会話劇なら会話劇の、ミュージカルならミュージカル特有の文体があって、それぞれが脚本上で表現しているものを、俳優の身体を介してスクリーンに表出させる。なので、脚本から受け取ることのできる意味やリズムを何よりも重視していて、その目には見えないものを俳優同士の関係性の中から生み出せる人々を尊敬しています。それは〈死体の人〉のように、端役であっても同じこと。ほんの少しの瞬間の空気を作り出すためにも、その場にいる一人ひとりが大切なんです。

この映画を撮る真の意義が生まれた
クライマックス・シーン

冒頭の池のシーンが顕著なのですが、劇中劇の中で主人公は何度も“死”を演じるので、それに特化した撮影の仕方をしました。危険なことが起きないよう、慎重に進めていかなければなりません。タイトなスケジュールでしたが、この作品だからこそ築くことのできた信頼関係で撮影に臨めたように思います。僕が本作で何よりも描きたかったのは、人生で立ち止まってしまった人々が次の一歩を踏み出す姿です。まさにそんな瞬間が収められているクライマックス・シーンの撮影時、僕は「OK」を出したのですが、当事者を演じる奥野さん自身が納得できなかったというエピソードがあります。彼の想いを受けてもう一度撮影をしてみたところ、やはりそちらの方がずっといいものになっていました。主人公と同じように演じることに真剣な奥野さんだからこそ生み出せた瞬間が刻まれていると思います。この作品を撮る真の意義が生まれた瞬間でもありました。

『死体の人』を経て思うこと

自主映画を長いこと撮り続けてきて、ようやく劇場デビューを果たせることになりました。僕の人生もどこか〈死体の人〉と重なるものがありますね。これまでいろんなジャンルの映画を撮ってきましたが、この『死体の人』のような作品こそが本当に自分の作りたいものなのだと気付きました。ご覧になった方が最終的に温かい気持ちになって、劇場を後にしていただけたら嬉しいです。“温かい気持ち”とは何かというと、それはやはり誰かが誰かに対して抱く愛情ですね。そういったものを肯定していくスタンスを持ち続けて、これからも映画を作り続けていきたいと考えています。これが僕にとっての新たな一歩です。

Interview & Text: Yushun Orita

脚本 渋谷 悠

しぶや ゆう 1979年生まれ 東京都出身

バイリンガル。2009年日米共同制作の短編映画「自転車」(脚本・プロデュース)が第66回ベネチア国際映画祭を含む世界23の映画祭で入選・受賞を果たす。2018年日米合作映画「千里眼(CICADA)」(脚本・プロデュース)がロサンゼルスアジア太平洋映画祭グランプリを初め多数の賞を受賞。2020年、長編オリジナル脚本「ノアの魔法」でNHKサンダンス・インスティテュートフェローに選ばれる。劇作家・舞台演出家としても活躍。著書に「モノローグ集 穴」、「モノローグ集 ハザマ」、「戯曲集 底なし子の大冒険/狼少年タチバナ」(以上、全て論創社)。

スチール 草野 庸子

くさの ようこ 1993年生まれ 福島県出身 

桑沢デザイン研究所卒業。2014年キヤノン写真新世紀優秀賞選出後、現在東京を拠点に活動している。
写真集に『UNTITLED(2015)』『EVERYTHING IS TEMPORARY(2017)』『Across The Sea(2018)』など。

主題歌 THEイナズマ戦隊
上中丈弥(ウエナカジョウヤ):Vocals, Guitars & Harp
山田武郎(ヤマダタケオ):Guitars & Chorus
中田俊哉(ナカタトシヤ):Bass & Chorus
久保裕行(クボヒロユキ):Drums, Percussions & Chorus
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1997年、札幌にて結成された4人組ロックバンド。鍛え上げられたサービス精神豊かな"ロックンロール魂"を武器に小さなライブハウスからビッグ・フェスまで、聴衆の「明日へのビタミン剤」となるライブパフォーマンスを披露し続けている。
近年では、関ジャニ∞、Kis-My-Ft2、A.B.C-Z、Sexy Zone、ジャニーズWESTなどへの楽曲提供も行っており、昨年には上中丈弥が郷ひろみさんの50周年記念シングル「ジャンケンポンGO!!」の作詞を担当するなど多岐に渡って提供を行っている。自身のライブでは、2018年5月に初の日比谷野外大音楽堂、翌年4月には中野サンプラザホール公演等を開催。常に走り続ける働き盛りのRock'n'Rollバンド。

主題歌:「僕らはきっとそれだけでいい」
作詞/上中丈弥 作曲/THEイナズマ戦隊
THEイナズマ戦隊(日本クラウン株式会社)

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Cast

奥野 瑛太 as 吉田広志 [死体の人]
奥野 瑛太 as 吉田広志 [死体の人]
奥野 瑛太 as 吉田広志 [死体の人]

1986年生まれ、北海道出身。

日本大学芸術学部映画学科に在学中からインディペンデント映画に出演。入江悠監督の『SR サイタマノラッパー』(09)に出演し、シリーズ3作目『SR サイタマノラッパー ロードサイドの逃亡者』(12)で映画初主演を務めた。主な映画出演作に、『37seconds』(19/HIKARI 監督)、『スパイの妻』(20/黒沢清 監督)、『すばらしき世界』(20/西川美和 監督)、『太陽の子』(21/黒崎博 監督)、『空白』(21/吉田恵輔 監督)、『激怒』(22/高橋ヨシキ 監督)、『グッバイ・クルエル・ワールド』(22/大森立嗣 監督)、など多数。主なドラマ出演作にはNHK連続テレビ小説「エール」(20)、NHK正月時代劇「いちげき」(23)、 TBS「最愛」(21)など。

Interview

“続けていたから、たまたまこの映画にめぐりあうことができたんだと思います。”

─出演の経緯を教えてください。

まず脚本を読ませていただいたのですが、お会いしたことのない草苅監督の顔が浮かびました。「これを書いた人はユーモラスで優しい人なんだろうな」と。それと同時にこの脚本は、この人にとって一生に一本書けるかどうかのものだと思いました。監督が持っているパーソナルな感情や現状を包み隠さず晒している青春のようなものを感じて、素直にこの作品に関わりたいと思えました。ただ、主演の吉田広志を演ることだけは気が引けました(笑) これだけ監督の顔が見える作品で、自分がその人を演じるのキツイなって。限られた撮影時間や制約の中で本人に見守られながら吉田広志という人間になれるのかと試される…まぁ、嫌だなぁって(笑) なので、監督に初めてお会いした時に『いろいろ考えましたけど、正直、僕はミスキャストです。』とお伝えしました。 それでも監督は、僕に演じてほしいと言ってくださったので、覚悟を決めました。

─物語に対する印象はいかがでしたか?

真面目さが空回りしてしまうのは、撮影現場に限らず社会のあらゆる場で見られるものだと思いますが、この物語は死体役にフォーカスすることで死生観まで描いています。生きることや死ぬことを言語として理解しようとするのではなく、そこに向き合う姿勢や人柄に光を当てている。生きることへの「情」みたいなのが死体役を通じて滑稽にも優しく描かれて好きでした。僕自身、普段似ているようなことをしているので本作が内包するテーマと僕自身が持つ考えとがリンクする部分がたくさんありました。死ぬ演技をするために必死になって生きようと、今でもチャレンジしています。

─“死体の人”こと吉田広志に対してはどんな印象を抱きましたか?

本作に参加している期間は、これまでの活動の中で身につけたもの、身についてしまったものを見つめる貴重な時間になりました。僕自身、いろいろ埃がついてきたなと反省するばかりです。下手に撮影現場の現実に触れ、広志のような温かく優しい前向きな気持ちばかりで仕事をしてこられたわけではないのかもしれません。広志が歩いているような道を僕もたどってきましたから、すごくシンパシーを感じる反面、広志と違って僕はどちらかといえばひねくれている。通じ合う部分があるからこそ、この誤差は演技をするうえでもかなり大きかったと思います。

─初タッグとなった草苅監督の現場はいかがでしたか?

本作が描いているのは僕にとって身に覚えのあることばかりでした。だからこそ、現場では意見をすることも多かったです。そんな僕に、そして何よりも吉田広志に、監督は寄り添ってくれました。というか、広志と草苅監督は僕の中で重なっていたので、監督の考えや見えているものに少しでも近づきたいと思っていましたね。現場でのやり取りは、一緒に積み木を重ねていくようなものでした。全体像が見えているのは監督ですので、一度監督に広志を演じていただきました(笑)。どの作品でもそうでしょうが、監督にとってこれが一生に一本の作品だろうからこそ、本当に撮りたいものが撮れているのか気になっていたんです。

─唐田えりかさんとの初共演はいかがでしたか?

芯があるけど、掴みどころがない。透けているような瞬間があれば、はっきりとした色合いで強く輝くときもあって。その揺らぎのようなものに魅力を感じました。殊に何かをストレートに伝える力を持っている方で、素敵で素直なエネルギーをたくさんいただきました!

─本作を経て得たものは何でしょう?

人としても俳優としても「死生観」というものに改めて触れる良い機会でした。死体役を演じることを通じて、どう「生きる」事と向き合うか。僕自身普段息をしてて、エロスよりもタナトスのような感覚が強いといいますか、ピンとくるんですが。逆に広志は本当にネアカだからこそ”死”について深く考えようとできるのかなと。その場その場で一生懸命に生きようとしちゃうってなんなんだろうなって考えさせられました。今までもこれからもあっちゃこっちゃ行ってごちゃごちゃ悩むんだと思いますが、少なからずともそんなふうに活動を続けていたから、今回この映画にめぐりあうことができたんだと思います。

Interview & Text: Yushun Orita

唐田 えりか as 加奈
唐田 えりか as 加奈
唐田 えりか as 加奈

1997年生まれ、千葉県君津市出身。

2015年にドラマ「恋仲」(フジ系)でデビューし、テレ東系「こえ恋」(16)、日テレ系「トドメの接吻」(18)、TBS「凪のお暇」(19)などのテレビドラマに出演ほか、韓国Netflixドラマ「アスダル年代記」にも出演。映画では、ヒロインを演じた『寝ても覚めても』(18/濱口竜介 監督)が第71回カンヌ国際映画祭のコンペティション部門の参加作品に選ばれた。2022年には主演映画『の方へ、流れる』(22/竹馬靖具 監督)が公開となった。

Interview

“お芝居ができることの幸せを噛み締めていました。”

─出演の経緯を教えてください。

オーディションに参加したのですが、久しぶりだったのですごく緊張したことを覚えています。事前に脚本をいただいていたので、自分なりに作品の全体像をイメージできていました。とはいえもちろん、すべてを理解できていたわけではありません。ただ、まだお会いしたことのない草苅監督がどんな方なのか、脚本から感じることができていました。何よりもユーモアを大切にする、きっと温かい方なのだろうなと。そこから監督が求めているのであろうものを読み解いて、オーディションに臨みました。本作はなかなか光の当たらない役者をやっている主人公だけでなく、加奈という一人の女性の成長物語が描かれているのに惹かれましたし、これを演じられれば私にとって大きな一歩になる。出演が決まったときは嬉しかったですし、あの頃の私としてはお芝居ができることの幸せを噛み締めていました。

─物語に対する印象はいかがでしたか?

私自身も役者なので、主人公の広志に共感する部分が大きかったですね。一生懸命になるあまり、どうも空回り気味になってしまうところとか。広志の撮影現場での姿を思い浮かべては、「役者はもっと柔軟でいなくちゃダメだ」と考えさせられたりもしました。本作はそういった物語を描いている一方で、人の生と死をもテーマに描いてもいます。加奈は新しい命と向き合うキャラクターでもありますから。私が広志だったらどうするか。私が加奈だったらどうするか。と、自分自身のことに置き換えて考えていました。何度もクスッっと笑える作品ですが、それだけじゃないんです。

─加奈というキャラクターに対してはどんな印象を持ちましたか?

彼女はこれまで私が演じたことのないタイプのキャラクターなんです。今まではおとなしい性格の役を演じることが多かったので、加奈との出会いは刺激そのものでした。私自身もそうなのですが、加奈は非常に不器用な人間です。けれども彼女は自分にとって大切なものができることで、やがて強い人間へと変わっていきます。社会の中で一人の人間として立つことができるようになっていくんです。この過程を実際に演じてみて、私自身の芝居も自然と変わっていくのを感じていました。

─奥野瑛太さんとの初共演はいかがでしたか?

最初の本読みの場で初めて奥野さんが広志のセリフを発したとき、衝撃を受けました。その時点で奥野さんは完全に “死体の人”だったんです。私の想像を超えた次元で、もう目の前にいるんですよ。奥野さんは一生懸命なのに思わず私は笑ってしまい、失礼なことをしてしまったと反省しています。でもそれくらいすごかった。だから現場でも奥野さんの存在は大きかったですね。奥野さんの熱量の高いお芝居に影響を受けて、私も自然と変わっていきました。今回ご一緒してみて、いち役者としての自分自身を見つめ直すきっかけを与えてくださいました。「役者ってこういうことだ」って。あの役は奥野さんにしか演じられないんじゃないでしょうか。

─初めての草苅監督の現場はいかがでしたか?

草苅さんがとても大切にしているポイントがありました。表情の感じや声のトーンなど、こだわるところは細部までこだわる方なんです。でも、一方的に演出をつけるわけではなく、役者に寄り添って一緒に考えてくださいます。奥野さんの存在もそうですが、草苅さんの存在があったからこそ生まれた加奈の姿が映画には収められているはずです。本読みの段階では広志と加奈以外の役のセリフを草苅さんが読んでくださったのですが、やっぱり上手いんですよね。なので現場で演出をされるときもそうで、監督が望んでいるものが具体的かつ明確で分かりやすいんです。役者の生理というものを理解されている方なので、不器用な私にはすごくありがたかったです。あと印象的だったのは、草苅さんと奥野さんのやり取りですね。奥野さんは役にのめり込んでいて、少しでも気になることがあればすぐに草苅さんに相談していました。これまで私自身は何か気になることがあっても、言語化することに自信が持てなかったりして、自分の中で完結させていました。正解は監督が持っていて、いかにしてそこに到達するかを考えていたんです。でも映画作りって本当はみんなでやるものですよね。改めてそんなことを考えさせられる機会になりました。

─本作を経て得たものは何でしょう?

演じることが好きなので、私はこの仕事をやっています。でも演じることに楽しさを感じられる次元にまではまだ至っていません。いつも完成したものを観てようやく、「この仕事をしてよかった」と思えるんです。演じることは楽しい反面、辛いことも多いです。本作でも加奈の置かれている境遇的に、楽な心境ではありませんでした。けれども同時に私自身、演じる環境があることが心の支えになってもいます。久しぶりに現場に立てたこと、そして本作のテーマに触れてみて、私が得た気づきです。

Interview & Text: Yushun Orita

楽駆 as 翔太
楽駆 as 翔太
楽駆 as 翔太

1996年生まれ、大分県出身。

映画『最初の晩餐』(19/常盤司郎 監督)で、第34回高崎映画祭最優秀新人男優賞を受賞。主な出演作に、映画・ドラマ『Life 線上の僕ら』(20/二宮崇 監督)、映画『明け方の若者たち』(21/松本花奈 監督)、MBSドラマ特区「夢中さ、きみに。」(21)、Amazon Prime Video「ショート・プログラム プラス1」(22)、MBS・TBS「明日、私は誰かのカノジョ」(22)、Huluオリジナル「あなたに聴かせたい歌があるんだ」(22/萩原健太郎 監督)、NHK正月時代劇「いちげき」(23)など。「俺の美女化が止まらない!?」(テレビ東京2023年4月期放送/Paraviにて先行配信中)で連続ドラマ初主演を務める。

田村 健太郎 as 東郷
田村 健太郎 as 東郷
田村 健太郎 as 東郷

1986年生まれ、東京都出身。

19歳で初舞台を踏み、2007年に舞台「レミゼラブ・ル」(ブルースカイ作・演出)で本格的に演劇活動を開始、舞台のみならず映画やドラマなど活躍の幅を広げている。近年の主な出演作は、『花束みたいな恋をした』(21/土井裕泰 監督)、『すばらしき世界』(21/西川美和 監督)、『私はいったい、何と闘っているのか』(21/李闘士男 監督)、『マイスモールランド』(22/川和田恵真 監督)、『神は見返りを求める』(22/吉田恵輔 監督)、『猫と塩、または砂糖』(22/小松孝 監督)、『手』(22/松居大悟 監督)、NHK大河ドラマ 「青天を衝け」(21)、舞台「ザ ・ウェルキン」(22/加藤拓也 演出)、「暮らしなずむばかりで」(23/木野花 演出)など。

岩瀬 亮 as 高橋
岩瀬 亮 as 高橋
岩瀬 亮 as 高橋

1980年生まれ、茨城県出身。

2005年「SEX GANG CHILDREN」にて舞台デビュー後、ポツドール、サンプル、ハイバイなど話題の劇団公演に出演。その後『イエローキッド』(09/真利子哲也 監督)に主演、2015年には河瀨直美プロデュースの日韓合作映画『ひと夏のファンタジア』(16/チャン・ゴンジェ 監督)に主演、海外進出を果たす。その他の映画出演作に、『バクマン。』(15/大根仁 監督)、『ディストラクション・ベイビーズ』(16/真利子哲也 監督)、『過激派オペラ』(16/江本純子 監督)、『シスターフッド』(19/西原孝至 監督)、『緊急事態宣言MAYDAY』(20/真利子哲也 監督)などがある。

烏丸せつこ as 吉田広志 [死体の人] の母
烏丸せつこ as 吉田広志 [死体の人] の母
烏丸せつこ as 吉田広志 [死体の人] の母

1955年2月3日生まれ、滋賀県出身。

1980年に映画『海潮音』(橋浦方人 監督) で女優としてのスタートをきる。1981年に五木寛之のベストセラーの映画化『四季 奈津子』(東陽一 監督)で日本アカデミー賞,主演女優賞,新人賞。ゴールデンアロー賞新人賞を受賞。1982年に 『駅 STATI ON』(降旗康男 監督)で日本アカデミー賞助演女優賞を受賞するなど映画を中心に活躍。近年の主な出演作は、『明日の食卓』(21/瀬々敬久 監督)、『なん・なんだ』(21/山嵜晋平 監督)、『夕方のおともだち』(22/廣木隆一 監督)など。

きたろう as 吉田広志 [死体の人] の父
きたろう as 吉田広志 [死体の人] の父
きたろう as 吉田広志 [死体の人] の父

1948年8月25日生まれ、千葉県出身。

1979年に大竹まこと、斉木しげるとラジカルで知的なコントユニット“シティボーイズ”を結成。1981年に日テレ「お笑いスター誕生」でデビュー。近年の主な映画出演作に『体操しようよ』(18/菊池健雄 監督)、『ロマンスドール』(20/タナダユキ)、『きまじめ楽隊のぼんやり戦争』(21/池田暁 監督)、『犬も食わねどチャーリーは笑う』(22/市井昌秀 監督)『ある男』(22/石川慶 監督)など。

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Comment

伊藤 俊也
映画監督
世の俳優志願者必見。いや、自分探しを余儀なくされているすべての人々にお薦めしたい。 そして、この映画の主人公を意地悪く観察してほしい。きっと、あなたが想像するように、 男は女を求めるだろう。それは一晩限りの女であって仕方がないのだ。ところが、あなたの 予想は簡単に超えられてしまう。その女が映画の核心を突く存在へと大きく変貌するからだ。
「死体の人」が逆手をとっての大芝居あり。奇想に発しながら、堂々たるヒューマン・シネマ。 最後に、「死体の人」が「死体」に極まるのである。
中原 俊
映画監督・大学教授
ユニークな題名に惹かれた。確かに我々はそう呼んでいた。
この国の長すぎる青春の苦悩をリアルにしかもオーソドックスな手法で捉えた 監督の技量は確かだ。役者も十分に応えている。 三年わたり「死に体」で過ごすことを余儀なくされた若者たちに、新たな一歩 を踏み出す力を与えるだろう。
吉野 耕平
映画監督
「死体役」という一見トリッキーな視点から描かれた、実はストレートな映像づくりの現場の物語でもあります。不器用な主人公はもちろん、劇中に登場するクセあり監督たちにまで不思議な愛情が芽生えてしまう空気は、まさに草苅監督にしか描けないもの。
軽さと重さ。可笑しさと哀しさ。生と死。虚構と現実。この世の矛盾を軽々と包んでしまう素敵な映画でした。
花堂 純次
Filmmaker
沢山の自主映画に挑戦し続けた時から見守ってきた。 彼の選ぶテーマは古き良き時代から変わらぬ静かな笑い…クスッと微笑みが溢れる中に温かさがあるものだ。
今の時代が忘れかけているささやかな感情かもしれない。
西尾 孔志
映画監督
死体を演じる役者は『よーい、スタート!』の声が掛かれば死ななきゃいけない。 しかし撮影が終われば自分の人生を生きなくちゃだ。 生きることが下手な二人(奥野瑛太×唐田えりか)のもがく姿が胸にブッ刺さる。
滑稽さとシリアスをジェットコースターみたいに行き来しながらこの映画が示す優しくも意外な結末に泣いた。